サービス産業の生産性向上とは

機械化、自動化、ロボット化などの進展により、製造業は労働生産性が大きく高まりました。かつては数百人で行っていた仕事が数十人、数人で対応できるようになった例も珍しくありません。

かつては組立加工や土木建設、金融業なども労働集約的でしたが、コンピュータシステムの導入などにより人手に頼る部分が減少し、より大きな資本企業が高価な設備を競い合う資本集約型産業へと変貌しました。少ない資本ではできなくなった代わりに、より少ない労働力で行える産業となったわけです。

サービス業においても同様に生産性向上は可能でしょうか。

サービス業においても、頭脳労働や判断業務がシステムに置きかわりつつあるか、もしくはシステムの支援を受けることでより高い生産性を発揮する事例が着々と増えつつあります(コールセンターでのAIの活用など)。

しかし、そこにあるべきはいきなりコスト削減ありきではなく、「どうやったら各人の能力をより高めて有効に使うことができるか」という視点です。

 

コールセンターの新人強化

あるコールセンターでは、新人が資料検索でお客様をお待たせしたり、応答後の要約作成に時間がかかっていました。このような状況では、単純に増員しても回答時間の短縮につながらず、一方受け持ち件数が多少減少してもストレス改善効果はそれほど見込めないため離職率改善も困難で、新人の育成とベテランとの平準化が課題となっていました。

この時同社が選択したのは、検索能力や要約能力の教育強化ではなく、支援システムの導入でした。これにより新人は画面表示された回答案を即座に伝えられ、要約作成も短縮化されることとなり、よりお客様との会話に集中できることとなりました。

確かに結果としては無駄を省き省力化ではありますが、目指したものは「一人一人の能力を高めること」です。

 

省力化と生産性向上

多くのサービス業においては、現場でサービスを提供する「人」が付加価値産出の源泉です。ここで単純にコストカットで従業員数を削減するということは何を意味するでしょうか。

 

お神輿の例で考えてみましょう。10人で担いでいたところ、突然一人抜けてしまえば残り9名の負担は増えます。9名の人材力が高ければとりあえずは耐えるかもしれませんが、さらに一人抜けたらどうでしょう。そうこうしているうちにやがてある時突然全員がつぶれてしまうはずです。

人が抜けるにしたがって神輿が軽くなるとしましょう。まさにばらばらのお神輿ということでしょうが、そうして縮小を続けたお神輿は、どのような存在感となるでしょうか。

 

さてここで、抜ける前にお神輿を車輪付きに改造していたとしましょう。ひょっとすると同じ大きさを4名ぐらいで引っ張ることができるかもしれません。そうなると2基扱えます。動力付きならば1名で操縦できるかもしれません。突拍子もないことなら、ロボット化していれば1名で10基ぐらいはコントロールできるかもしれません。

そこまで行ってしまってはもはや伝統も何もないですが、ではお神輿ではなく今行っているビジネスで守りたいものは何なのか、伝統や旧来のやり方なのか、ということは企業理念と共にきちんと振り返ってみるとよいでしょう。

 

10人が9人や8人になっても耐えられる足腰、頑張り、人材力を求める「強い企業」づくりも一つの方法ではあります。しかし企業に無駄がないとき、多くは同時に余裕もありません。余裕のない企業には成長もないのです。

 

上からの重さが難しいなら支える車輪はどうだろう、引っ張る重さに変えてはどうだろう。一人一人の力の使い方を変え、求める仕事の内容を変化させ、それを補強する手段を整えることで、10人で1基が8人で2基などといったことも可能となるでしょう。

 

「今の成果をより楽に」で行う省力化にあたっては、楽になったことで得た余裕で元よりも高度なことを目指すといったレベルが成功の秘訣です。